「IP67のトランシーバーだから、海水に浸けても泥まみれになっても大丈夫!」と思っていませんか?
無線機やトランシーバーのカタログによく記載されている「IPコード」は、機器の防塵・防水性能を示す重要な指標です。
このIPコードの数字の裏に隠された「正しい意味」を理解することで、トラブルを未然に防ぎ、長く安心して使いこなすことができます。
このページでは、IPコードの基本的な意味から、各数字が示す具体的な性能、現場でのトラブルを防ぐために注意すべきポイントをわかりやすく解説します。
IPコードとは
トランシーバーや無線機のカタログなどに記載されているIPコード(International Protection Code)は、JIS規格または同等の国際規格IECに基づいて評価された電気機械器具の保護等級を示しています。
IP保護コード
(International Protection)
6防塵
性能
7防水
性能
IPコードの数字が示す意味
IPコードを表示するためには、認定を受けた試験所において、規格で定められた様々な条件に基づいた試験をクリアしなければなりません。
防塵性能に関する保護等級
| 数字 | 保護等級の示す意味 | 具体的な状態(イメージ) |
|---|---|---|
| 0 | 無保護 | 塵埃に対する保護なし |
| 1 | 直径50mm以上 | 手で触れる程度の大きな異物から保護 |
| 2 | 直径12.5mm以上 | 指で触れる程度の異物から保護 |
| 3 | 直径2.5mm以上 | 工具先端程度の異物から保護 |
| 4 | 直径1.0mm以上 | ワイヤーの先端程度の異物から保護 |
| 5 | 防塵 | 機器の動作を阻害する量の塵埃の侵入を防ぐ |
| 6 | 防塵 | 塵埃の侵入がない |
重要防塵性能に関する補足事項
試験条件に注意!
- 「塵埃の侵入がない(IP6X)」とされていても、これは特定のサイズの粉塵が特定の時間、特定の量で舞う環境下での試験結果です。
- 「IP5X(防塵)」は、塵埃の侵入を完全に防ぐものではなく、「機器の正常な動作を阻害する量の塵埃の侵入がない」ことを示します。
「粉塵」の定義に注意!
-
特にIPコードの試験で用いられる粉塵は、主にタルク(滑石)などの乾燥した微細な粉末が想定されています。そのため、鉄粉や油分を含んだ粉塵、粘着性のある粉塵など、実際の現場で発生する可能性のある多様な素材の粉塵に対して、必ずしもカタログどおりの防塵性能が期待できるとは限りません。
タルク(滑石)
防水性能に関する保護等級
| 数字 | 保護等級の示す意味 | 具体的な状態(イメージ) |
|---|---|---|
| 0 | 無保護 | 水に対する保護なし |
| 1 | 鉛直水滴保護 | 真上からの水滴に耐える |
| 2 | 15°傾斜水滴保護 | 15°傾けても真上からの水滴に耐える |
| 3 | 散水保護 | 散水に耐える |
| 4 | 防沫 | あらゆる方向からの水の飛沫に耐える |
| 5 | 防噴流 | あらゆる方向からの噴流水に耐える |
| 6 | 防暴噴流 | あらゆる方向からの暴噴流水に耐える |
| 7 | 防浸 | 規定の水深での一時的な水没に耐える |
| 8 | 防浸 | 規定の水深での一時的な水没に耐える(7より厳しい条件) |
重要防水性能に関する補足事項
IPX7 / IPX8と下位等級の関係
- IPX6以下の等級は、その下のすべての条件を満たすことを意味します(例:IPX5はIPX4、IPX3なども満たす)。
- しかし、IPX7やIPX8は、必ずしもIPX6以下の噴流や散水の条件を満たすとは限りません。例えば、一時的な水没に耐えても、流れてくる水に弱い場合があります。
- 「IPX5 / IPX7」のように複数の防水等級が併記されている製品は、それぞれの試験をクリアしていることを意味します。
「水」の定義に注意!
- IPコードの防水性能試験は、製品と同じ温度(温度差5℃以内)の「真水」を使用します。
- 海水、ジュース、油、洗剤水、薬品、お湯(高温の水)などは試験対象外です。これらの液体は特に故障の原因となる可能性が高いのでご注意ください。
「噴流(IPX5)」や「暴噴流(IPX6)」のイメージに注意!
- カタログにある「噴流(IPX5)」や「暴噴流(IPX6)」という言葉からは、水道の蛇口から勢いよく出る水などをイメージしがちです。
しかし、実際には規格で定められた特定のノズルから、特定の水量・水圧で一定時間だけ噴出される水を指し、それほど水圧のあるものではありません。 - IPX5やIPX6の製品でも、一般的なホースで勢いよく水をかけたり高圧洗浄機を使用したりすると、浸水する恐れがあります。
- 「防水性能があれば雨の中で使用してもOK」と考えられがちですが、横殴りの激しい雨や長時間の雨などは、試験条件を超えた状況になりうるため注意が必要です。
「防浸(IPX7 / IPX8)」のイメージに注意!
- 「防浸(IPX7 / IPX8)」は、一定の条件で一定の時間だけ真水の中に静かに置かれている状態に耐えることを指しています。
- 水中で使用したり、高所から勢いよく水に落下させたりする試験ではありません。
試験時間の限界
- IPコードの試験は、規格で定められた一定の時間のみ行われます。例えば、IPX5は3分間以上噴流水を当てる試験です。
- 長時間の水没や連続的な水の暴露に対しては、防水性能が保証されない場合があります。
急激な温度変化と結露に注意!
- 温度差が大きい場所に移動すると機器の内部に結露が生じますが、水に対する保護試験では温度差による結露は水の侵入とはみなしません。
- しかし、結露によっても機器はダメージを受けるため、防水性能の高い無線機であっても、急激な温度変化に晒すことは避けるようにしましょう。
- 冷蔵倉庫(冷凍倉庫)やスキー場などで温度差の大きい場所を行き来する場合は、できるだけ結露を防ぐために防寒着の内側に無線機を装着することをおすすめします。
重要保護等級に関する補足事項
- すべてのトランシーバーや無線機が試験を受けるわけではありません。
- IPコードで示される防塵防水性能は、新品かつ取扱説明書に沿った適切な使用状況で発揮されるものです。
- 無線機を落下させたり圧迫したりすると、筐体に目に見えない歪みが生じ、本来の防塵防水性能が発揮できなくなります。
- メーカーの保証期間を過ぎてパッキンやOリングなどに劣化が生じてくると、新品時のような防塵防水性能は維持できません。
- 取扱説明書において推奨されない使い方をした場合も、性能が保証されませんのでご注意ください。
故障を防ぐ! 雨の日のプロの運用テクニック
防塵防水性能が高いトランシーバーでも、実際の使用環境ではちょっとした工夫が大切です。
とくに雨の日は、以下のような使い方を意識しましょう。
レインコートの中に装着しましょう
無線機本体
無線機とイヤホンマイクの接続部分に水が入らないよう、本体はなるべくレインコートの中に入れて使用するのが安心です。
イヤホンマイク
先にイヤホンマイクを装着してからレインコートを着ると、コードがじゃまになりません。
マイク部分はフードの内側など、雨が直接かからない位置にクリップで固定してください。
「雨の中でも安心!」という謳い文句をうのみにせず、こうした工夫で防水性能を活かすことが、トラブル防止に役立ちます。
IPコードはあくまで目安! 実際の使用環境に合わせた機種選びを
IPコードは、トランシーバーの防塵防水性能を理解する上で非常に役立つ指標です。
しかし、ご紹介したとおり、その数字はあくまでもJIS規格やIEC規格で定められた特定の試験条件をクリアした場合の保護等級を示します。
実際の現場環境や使用状況によっては、カタログ値どおりの性能が発揮されない場合がある点にご注意ください。
現場でのトラブルを未然に防ぐためには、カタログのIPコードだけでなく、「どのような場所で」「どのような目的で」使うのかという実際の使用環境を考慮した機種選びと使い方が不可欠です。
うちのような現場だとIPコードいくつくらいの機種が使われているの?
どの機種を選べばいいか分からない…



